京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
母は良家の令嬢だ。
既に子供がいる相手に嫁ぐには、或いは嫁に出すには説得と、お互いの熱意も必要だったろう。
「彼女には充分な養育費を支払ってあるし、もう縁は切れているんだ。……子供の方は仕方がない。親父の決定だからな。だからって何も恐れる事はない。ただの旅館の経営者だ」
「分かってるわ……でも不安なの……」
「そんな必要は無いよ……」
お互いを思いやる言葉と気遣いが壁の向こうから聞こえてくる。
ただ父母がお互いに見てるのは自身ではなく、その背景だけれど。
彼らにとってそれは愛情より大事なもので、そんな価値観で繋がり、縛られている『家族』。
「……」
そんな似たもの同士でいつまで経っても仲の良い二人から傍立てていた耳を離し、昂良はふーんと鼻を鳴らした。