京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
兄がいる。
結婚の際に母に話してあるというなら、そうなのだろう。子供が出来ていながら結婚しない父にどうかとは思わない。自分も今付き合っている彼女と結婚するかと言われると、返事はノーだ。子供が出来たとて考えが覆るとは思わない。
父もそんな付き合いの相手だったんだろう。ヘマをした。自分は気を付けよう、と思うくらいだ。
ただ……
「兄、ね」
すっかり夢中になり出した父母に、昂良の呟きはもう聞こえない。昂良は自室に戻りながら京都の旅館とそこに住む祖父の顔を思い浮かべた。
祖父には十歳の頃に会ったきりだ。
父母が学校の成績を誉め聞かせれば、喜んでいたのを覚えている。
けれど、何故か垣間見えた失望が、鋭く昂良を射抜いたのをよく覚えている。
昂良は学業でも家庭環境でも、期待に添えなかった事は一度もない。だからこそたった十歳の昂良でも、祖父のそれに敏感に反応したのだ。