京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
『お祖父様……?』
昂良の頭を撫でた後、そのまま離れていく掌の重さを、何とも言えない思いで追いかける。
『……昂良、か。良い子に育てたな秀矢、梓さん』
『まあ、そんな。ありがとうございます、お義父さん』
『そうだろう親父、たまには遊びに来るからな。寂しがるなよ』
ころころと笑う母に、胸を張る父。
結婚当初から疎遠だったという父の実家に、その日昂良は父母と共に初めて訪れた。
祖父が自分に会いたいと言ったから。
昂良が十歳になって。両親が結婚して十年以上あった確執とか蟠りとかは一旦忘れて。親父も歳を取ったんだろう、なんて父は言っていたけれど……
嬉しそうに会話に興じる父母を見るに、彼らは気付いていない。昂良を映す祖父の目は、確かに孫を見るそれだろう。けれど、それだけだ。そこにはいつも見てきた過度な愛情も、多大な期待も存在しない。
昂良は産まれた時から全てを持っていた。
物心つく前から与えられ、求められる事が当然だった。
だからこそ敏感に感じた失意。
そうして昂良はその日、初めて自分に無価値という言葉を当て嵌めたのだった。
それを覆した、兄──
(ふうん……)