京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
面白くない。
父はチンケな旅館だなんて言っていたが、小さかろうが、大きかろうが、それは本来四ノ宮家の一人息子である昂良のものだ。
それに成長するにつれ、社交の場に出れば昂良にだって見えて来るものがたる。
父が運営している会社。それが成り立っているのは、正確には祖父の影響力。
父が東京に拠点を移したとしても、祖父の名は必ず耳にするからだ。
名家、老舗、良家……そんな家柄のものたちが揃って京都の四ノ宮を口にする。
『京都のお父様はお元気?』
『ええ、変わりませんよ』
『昂良さんは、旅館を継ぐのかしら?』
『いや、息子には旅館だけでなく、色々やらせてやりたいんですよ』
『まあ、そうなのね……』
楽しみねと口にしながら、冷めた眼差しが返ってくる。
そうして祖父と同じように昂良の価値を定め、離れていく。
どうして父は気付かないんだろう。
昂良と違い、褒められた事しか受け取らない。
昂良は家でも学校でも一番で、誰も自分を無視出来ない。
それなのに、この場では誰も彼も昂良を上辺だけ褒め、去っていく。
何故──
追い縋るような気持ちで、離れていく者たちを睨みつけていた。
その理由はこれだったのだ。
自分を認めなかった祖父と、行方知れずだった兄。
それにあの旅館には何かある。
自分を追い詰めていた何か、ようやく掴みかけたそれを追い、昂良は一人、京都へ向かった。