京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 面白くない。

 父はチンケな旅館だなんて言っていたが、小さかろうが、大きかろうが、それは本来四ノ宮家の一人息子である昂良のものだ。
 
 それに成長するにつれ、社交の場に出れば昂良にだって見えて来るものがたる。
 父が運営している会社。それが成り立っているのは、正確には祖父の影響力。
 父が東京に拠点を移したとしても、祖父の名は必ず耳にするからだ。
 名家、老舗、良家……そんな家柄のものたちが揃って京都の四ノ宮を口にする。

『京都のお父様はお元気?』
『ええ、変わりませんよ』
『昂良さんは、旅館を継ぐのかしら?』
『いや、息子には旅館だけでなく、色々やらせてやりたいんですよ』
『まあ、そうなのね……』

 楽しみねと口にしながら、冷めた眼差しが返ってくる。
 そうして祖父と同じように昂良の価値を定め、離れていく。
 どうして父は気付かないんだろう。
 昂良と違い、褒められた事しか受け取らない。

 昂良は家でも学校でも一番で、誰も自分を無視出来ない。
 それなのに、この場では誰も彼も昂良を上辺だけ褒め、去っていく。
 何故──
 追い縋るような気持ちで、離れていく者たちを睨みつけていた。


 その理由はこれだったのだ。
 自分を認めなかった祖父と、行方知れずだった兄。
 それにあの旅館には何かある。
 自分を追い詰めていた何か、ようやく掴みかけたそれを追い、昂良は一人、京都へ向かった。
< 170 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop