京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
6. 成就を願う望みたち
1. 葛藤
高校一年の夏休み。
一日くらいなら親だって誤魔化せる。何なら祖父に口添えして貰ってもいい。
とにかく昂良は自分の胸に溜まる靄を晴らしたかった。
年賀葉書を持ち出して、祖父の元へ向かう。
そしてもう一つの目的は異母兄。
彼はどんな存在なのだろうか……
四ノ宮の経営する旅館、凛嶺旅館に辿り着き、果たしてどうやって祖父に会おうかと頭を悩ませる。
勿論正面から行っても構わないのだけれど、確か前回……もう五年も前になるが。
その時はそうやって訪れ旅館の特室に泊まったのだ。実家だから当然だと父は言っていたけれど、あの時の従業員たちの取り澄ました表情を昂良は気に入らなかった。
何処かこっそりと入り込める場所はないだろうか……
だだっ広い敷地をぐるりと回っていると、庭園が見えてきた。……確かここを抜けた先に祖父が住む奥座敷と呼ばれる庵があった。旅館の近くは山間で、幸い今は人目もない。昂良は柵を越えて旅館に忍び込んだ。
綺麗に整えられた竹林に隠れ、記憶を頼りに庵を目指す。すると前方に人影が見え、慌てて身を潜めた。
ざっざっ、と音を立てて、竹箒を持ち落ち葉を掃いて焚き火をしている。藍色のお仕着せは確か使用人のもので、その着物と後ろ姿から男だと分かる。けれど髪が金髪だ。格式高いと言われているこの旅館で、そんな事が許されるのだろうか。