京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「あ、ごめんなさい……あたしたち婚約者なの。それで、つい……」
許してね、と柔らかくはにかむ乃々夏に昂良は思わず声を荒げた。
「婚約者……?」
変わらずそっぽを向いたままの朔埜を宥めるように手を添えて、乃々夏は嬉しそうに続ける。
「そう、親同士が話してね。まだきちんと決まってないけど、きっとそうなるの。だって旦那様のあんな顔は初めて見るから」
頬を紅潮させ話す乃々夏はとても愛らしい。
旅館の後継者という立場には、こんな可愛らしい少女との婚姻も用意されるものなのか。
朔埜に対して益々恨めしい気持ちが募っていく。
「朔埜ー、乃々夏ちゃーん」
遠く、名前を呼ぶよく通る声。
数年前の記憶と重なり昂良の頭を刺激した。
祖父だ。
けれど何故か身体は反転し、昂良はその場に背を向けて駆け出した。