京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「あ、おい」
 呼びかける朔埜の声に振り返る事はない。
 ここまで来るともう、祖父が昂良の助けとなるとは思えなかった。
 いや、分かってしまったと言うべきか。
 この地に住む祖父が後継者の座と婚約者を用意し兄を迎えている。つまり認められているのだ。
 それがあの時向けられた昂良への眼差しと、どれ程違うのか……とても目の当たりには出来ない、したくない。

 それでも離れた場所で、後ろ髪を引かれる思いで振り返る。
 焚き火から上がる煙が薄く彼らを隠し始めて、きっと向こうからも昂良は同じように見えていない筈だ。

「誰かいたのか?」
「……別に」
「迷子みたいでした〜」

 なのに見えてしまう。祖父と乃々夏の眼差しに、優しさと慈愛……そして期待が込められているのを。

(羨ましい)

 何でも持っているからと言って、それが昂良の望む物とは限らない。初めて自分から欲しいと求めた物だからこそ、これ程までに輝いて見えるのだ。
 燻る煙すら、晴らしてしまう程に……

(狡い……)

 兄は昂良の欲する物を持っている。
 けれどそれは元々昂良のものだった。
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