京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
あの場に耐えきれず逃げ出してしまったけれど、史織は背を向けたホールを振り切れずにいた。
朔埜にはお付き合いしている女性がちゃんといた。……お見合いは完全に手違いで、きっと行き違いもあったのだ。本人の意思だけで進む話でも無いのだから。
史織は帰って母と麻弥子にそう伝えればよい。
もう、それだけなのに……
「──ううん」
違う。
だってお仕事はお仕事だ。
千田から頼まれた依頼の話ではなく、凛嶺旅館で与えられたものがあるのに。
感情に流されてうっかり見失ってしまうところだった。
そう、それに朔埜は困惑して、……それでいてどこか傷ついているように見えた。
それを婚約者がいるからと、背を向けてしまった事を今更ながら史織は後悔した。
ここに来てずっと朔埜を追いかけて、観察してきたのだ。些細な表情の変化くらいなら見過ごさない自信はある。……自分への自信の無さから目を背けてしまったけれど。