京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
それでは失礼しますと口にしながら頭を下げようと、そんな動作を示したところで、昂良から声が掛かった。
「あの、よろしければ旅館を案内して貰えませんか?」
「へ……?」
間の抜けた声が漏れ、慌てて口を塞ぐ。
昂良はくすくすと笑っているが、流石にちょっと気を抜きすぎたようだ。
「すみません……」
「ああ、いや。構いませんよ。こちらこそ急ですみません。ただ催しをするにあたって、恥ずかしながらこの旅館の事は殆ど知らないんですよ。あまり来た事が無くて……」
そう言って頭を掻く昂良に史織は困惑してしまう。
「その、申し訳ありません。私は見習いでして、案内出来る程こちらに詳しくないんです……」
恐縮する史織を興味深そうに眺め、昂良はにこりと微笑んだ。
「まあ、そう言わずに。あなたから兄の話を聞きたいんです……千田 史織さん」