京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
兄は……
どうしているだろう……
十八歳になり、昂良はすっかり途方に暮れていて、ぽつりと呟いた自身の声に従う事にした。
父の秘書の挾田に声を掛け、異母兄がいる事を相談した。
挾田は三十歳でまだ駆け出しで、気さくな性格。何より昂良を可愛がり、よく気にかけている相手だ。
彼は昂良に兄がいると把握していたようだが、昂良が知っているとは思わなかったようで。父母に内緒でどんな人か知りたいと懇願すれば、困惑しながらも応じてくれた。
やがて受け取った書類には、正式に旅館の後継者になると決まった事。婚約が内定した事が明記されていた。兄は具体的に何をしているのか、調べようとしても学業と兼業して旅館経営の修行をしている以上の事は分からないようだった。
四ノ宮の家は口が堅いと、秘書の彼は言っていたが、それ以上何も無い、というのが理由といった風でもあった。
「これといって面白い話なんてない人でしたけど……ああそうだ。婚約者の他に恋人がいるのではないか、なんて噂話はありましたよ」
苦笑する秘書に、昂良は受け取った報告書をぺらぺら捲った。
「浮ついた話は口が軽くなるのかもしれませんね」
明るい口調で何でもない事のように付け加えるけれど……
「報告書には書いてないみたいだよ」
「噂、ですから。相手の素性も知れませんし」
「兄が隠してるという事かな?」
「……そんな風でもありませんでしたね、なんて言うかこう……初恋?」