京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「──何故ですか?」
 柔らかく静かな声が、史織を上から圧迫する。この人も人の上に立つ立場なんだと、改めて身体が急に強張った。
 
「せめて直接、両親に話をしてから……」
「必要ありません、自立したいなら、結婚くらい自分で決めて構わないでしょう。──それとも俺に不満があるとでも?」
 じりじりと追い込んでくる昂良に、史織は根を上げたくなった。
「違います、そうじゃなくて……他に好きな人がいます」
「それは……」
 正直言いたく無かったけれど。
 そう言えばもう踏み込んでこれないと、そう思った。それなのに何故、この人は更に嬉しそうに史織に迫るのか。

「近寄らないで」
「大丈夫、気にしないで。その相手を心に残したまま、俺のところに来て下さい。ちゃんと幸せにしますから」
 ひく、っと自分の頬が引き攣るのを感じた。
 何だろう、この何を言っても通じない、もう決定事項という雰囲気は。
 彼を良い人そうだと思った自分の感性を叩き割り、一から構成し直すべきだと、頭の中で喚く自分がいる。
(ああ、本当に私って。見る目が無いわ!)
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