京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

『……お嬢様』
 いつものように始まった夫婦喧嘩を乃々夏は息を殺して聞いていた。その場から離れ、部屋に逃げ込んでも、きっと母が押し入って来るだろう。そうなってしまうとその場で一人、母が父を詰る言葉を聞かなくてはならない。
 それよりは、ここで二人の話に耳を傾けて、やがて自分に矛が向いた時、父がそれを払ってくれる事を期待した方がいい。

 いずれにしても母が落ち着くまで一人にはならない方がいい。
 乃々夏はそっと声を掛けてきた従者の青年を振り仰いだ。

 まだ十八歳と年若い彼は四ノ宮家の代々の側仕えで、今代も東郷と四ノ宮の関係が揺るぎないものである事の証となり、東郷家に奉公に上がっている。
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