京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
そんな男の頭を撃ち、昏倒させ辻口が乃々夏をベッドから引き上げ、苦々しく告げる。
『抵抗して下さい』
『……何に? お父様もお母様も家の為、私の為に尽くしているのよ。それなのに片方の言葉だけ聞くのは、おかしいじゃない……』
乃々夏に縋る母の顔が頭から離れない。
それでいて覆る筈もない、父の決定に抗えない自分がいる。
『あなたの気持ちを優先して下さい』
『そんなもの、誰も必要としていないわ……』
父も、母も、大旦那様も、朔埜だって……
必要なのは、東郷の一人娘で……
『あなたが必要なものを選んで下さい』
その言葉にはたと顔を上げる。
『あたしが……?』
そう呟くと辻口は迷いなく頷いた。
『誰か、ではなく、自分の心に委ねるのです。それに反するものは、捨てていいのですよ』
乃々夏は首を横に振った。