京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
『あたし、朔埜と結婚するわ』
その言葉に辻口は表情も無いまま頷いた。
『あたしが東郷の娘を全うする限り、お母様もその母親であるのだから……』
『はい。お言葉、確かに承りました』
静かに口にする男に乃々夏はゆるりと頷いた。
彼もまた、家に縛られているのかもしれない。けれど──その心はきっと、その使命とかけ離れたものでは無いのだろう。
『あの人を誘惑すればいいのよね、望む事だって何でもしてあげる。……好きになって貰うよう、努力するわ』
『はい……』
そっとその様子を窺えば、辻口は静かな瞳で乃々夏の話に耳を傾けていた。ただ、それだけだった。