京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
『聞いて辻口! 朔埜ったら誘惑しても、はぐらかされちゃうの〜!』
『……そうですか』
『ちょっと挑発したら子供作るか、なんて押し倒して来たくせに! やっぱもっとおっぱい大きくなってからとか言われた〜!』
『…………そうですか』
淡々と、辻口は朔埜のそんな顔を思い浮かべながら返事をしていた。
朔埜も乃々夏の事情を知っている。
相手にしない訳にはいかないのは、お互いの利害が一致しているからだ。
……けれど婚約期間を設け時間を掛けるほど、頭と気持ちは乖離して、自身の感情は追いついていかない。それもお互い、一緒のようだった。
もし彼が本気で結婚を決めたなら、乃々夏の母の説得とて容易いだろうに。
それが出来ないのは、自身の境遇から救ってくれた祖父への恩と、消せない気持ちの間で葛藤を抱えているから。