京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「昂良よ、何故お前が史織さんを追いかけまわす。質の悪い考えは切り捨てよ」
 戸口の影で誰かが身動ぐ気配がした。
「──人聞きが悪い。俺はただ、史織さんと話をしていただけですよ。話の途中で急に駆けて行ってしまったから、心配になって追っただけです」

 そっと顔を覗かせれば、その柔和な面立ちには眉が顰められ、先程から僅かに余裕が削がれているように感じられた。

 水葉に緊張しているようだ。
 水葉は祖父より少し若いくらいだろうか。
 そんな水葉の、まだ逞しさの残る身体の影に隠れ、史織は昂良からそっと視線を外した。

「私は……家に確認したいと言いました。お話を聞いて貰えないようでしたから、失礼させて頂いただけです……」
「話ならいくらでもしましょう、だからもっとちゃんと俺を見て下さい。俺はあなたにも自分を知って欲しい。同じ気持ちで思い合いたいのです」
「会ったばかりでそんな事を言われましても……」
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