京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「……でも君は、兄が好きなんだろう?」
「なっ……」
 わざと遠回しに伝えた意味を考えて欲しい。
 多分赤らんだであろう史織を見て、昂良は口角を上げた。
「だったら分かる筈だ。好きなものを欲しいと、手を伸ばすのは人として当然だろう?」
 あなたは私を好きではないでしょうと言いたい。
 けれど一旦それは脇に置いておく。

「……ですが、それをすれば嫌がる相手もいるではありませんか。それは、気にならないんですか?」

 眼裏に浮かぶのは、乃々夏さん。
 例え史織が我を通したところで、朔埜に彼女がいる以上は無理だ。
 だって自分の気持ちを優先して、思いだけでもと彼に伝えたら。応えられないけど、ありがとうと言われたら。
 ……きっと罪悪感が胸を軋ませる。
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