京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
だからあなたが今手を伸ばしているものは、決して大事なものじゃない。と、暗に示しておく。
けれど昂良は混乱を瞳に宿しながらも、史織を見る目に固執という力を込める。
「……気付かなかった事は謝るよ。僕の周りは常に人も物も溢れ返って飽和状態なんだ。でも、これからはちゃんと大切にするから」
水葉のをすり抜けて、昂良は史織の腕をがっと掴んだ。
「あっ、こら昂良!」
渋面の水葉をそのままに、昂良の元に引き寄せられ、その目を間近に見てしまう。
一体何を見ているのか。目が合っている筈なのに、もっと奥深くを探られるような、食い入るような眼差しに身体が強張る。
「やめ……」
怖い。
深く昏いこの人の目は、何も写さず飲み込んでいく、底無しの沼みたいだ。
「やめ、言うてるやろ──!」
ガッと鈍い音と共に昂良が横に弾かれた。
体制を崩す昂良から牽制するように、背中に史織を隠すように立ちはだかるのは朔埜だ。
ホッとして、思わず伸ばしそうになる手を握り込む。
「兄さん……何しに来てんだよ、乃々夏さんは?」
口の中を切ったらしい昂良が、苦い顔で朔埜を睨んだ。
「お前に関係ないやろ」
朔埜もまた昂良に歯を剥いて牽制した。