京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

7. 待ちぼうけ


「──朔埜は、来ないわね」
 三芳の淹れた緑茶を覗き込めば、口元にだけ笑みを作った自分の顔が写っていた。
「……お嬢様」
「いいのよ」
 言いにくいだろうに、毅然とした姿勢を崩さない三芳に乃々夏は笑みを返す。
「来ないならそれで、いいの」
 四ノ宮はずっと東郷に付き従ってきた。
 けれど、これが変化の兆しだとしても、恐らく東郷家に止める術はない。

 同じ年頃の男女が産まれれば情が湧くように。両家の子女は必ず近くで育てられたそうだ。身分が違えども、粛々と縁付いていく期待を込めて。
 それは東郷の思惑だ。四ノ宮が近くにいて、都合がいいのは東郷の方だから……

 だから今この時、乃々夏が彼の心を繋ぎ止められない事を、彼らは責めるかもしれない。それを乃々夏は許さないけれど。

 乃々夏は努力した。朔埜に好かれるように振る舞ったし、彼の付き合ってきた女性たちを真似て自分らしさすら殺して。母の機嫌を取り、父の期待にも応えるべく当主代理となる為に勉強をし、警察でキャリアも積んでいる。自分の全てを以って家に尽くしてきた。
 それが結実をしなくても、これが乃々夏の出来る全てだった。
 ただ……
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