京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「……あの、」
襖へ振り返る乃々夏に三芳が声を掛ける。
振り向いた先の三芳はどこか気まずそうで、何かを躊躇うように身動いだ。
「何?」
短く告げれば、彼女は一つ頷き、意を決したように口を開いた。
「東郷はんの使命は、知っているつもりです。お家は大事でしょう。ここにいれば家を繁栄させる事も、存続させる事も大変なのが良く分かります。……ですが、お嬢様が、その大海の中で自分の人生全てを犠牲にするのは間違いですわ。たった一人で全てを背負うのなんて、私らには無理なんです。……実際やってる人が目の前におりますから、誤解しそうになりますけど。普通は無理な事です。だから……幸せを、望んで下さい」
真っ直ぐな三芳の眼差しに乃々夏はぼんやりと口を開く。
「……全てを一人で背負う事と、全てを捨てて一人で幸せになるのと、何が違うの」
いずれにしても、一人。
「他の誰かの期待から目を逸らすのは、大事ですよ。ちゃんと自分の心が望んだものを、選んで下さい」
真剣な顔で、引く気配もない三芳に苦笑する。
辻口も同じ事を言っていた。