京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
ただ実は、密かに感心して黙っていた──というのもある。実際の人物に成り代わるのは、素人には案外ハードルが高いのだ。
朔埜は史織を知っていたから初見で看破したけれど、普通はそれを警戒し、架空の人物を用意する。結果墓穴を掘るのだ。まあ、しかし──
「それは別に、どうという事はない」
どちらかというと朔埜は史織に気付いて貰えない事の方が問題なのだから。
彼女の頭の中を占める、四年前の自分は果たしてどれ程美化されているのやら。
もしかしたら彼女が好きになったのはただの理想で、自分ではないんじゃないかと胸が軋む。
「昂良が……弟が、あんたに見合いを申し込んだやろ。あれは──」
「お断りしますよ、勿論! 私には今好きな人がいるんですから」
「え……」
必死に言い募る史織に絶句してしまう。
……そんな相手が、いつの間に?
「その、だから昂良さんにはちゃんとお断りしますし。……その人もですね、」
「駄目や!」
気付けばもう片方の手首も掴み、史織に詰め寄っていた。
「若旦那様?」
曇る史織の表情から目を背け、必死で言葉を紡ぐ。
彼女を繋ぎ留める言葉──
「お前だけやない」
「……え?」
「四年前を忘れられないのは、お前だけやない」