京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「お嬢様」
乃々夏は木陰に隠れる辻口にふと笑みを返した。
「もうお前のお嬢様ではないわ。お前は四ノ宮に帰るのでしょう?」
つい、いつものように笑ってしまう。
乃々夏は視線を逸らし、辻口の前で立ち止まる。
「……はい」
「そう、迷惑を掛けたわ。結局ここに嫁がなかった女に仕わせてしまってごめんなさいね」
その言葉に辻口はぎゅっと眉間し皺を寄せた。
珍しい、彼はあまり感情を表さない。
「乃々夏……さん、は素晴らしい女性です」
「そ、ありがとう」
例え万人に褒められたところで、当人に認められなければその言葉は虚しいだけだ。
「……結婚、されるのですか?」
乃々夏は思わず顔を上げる。
「お母様を止める術は無くなったもの……きっと私の縁談を用意して待ってると思うけれど、誰でも一緒よ……」
心を通わす努力が必要な人。
また同じ事を最初からしなければならないのは億劫だけど。