京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 その眼差しから確固たる意思が揺らぎ、切実なものが溢れ出す。
 いつも見てきた顔。
 時々滲ませた彼の本心。
 ずっとそこから目を背けてきたけれど、気付かなかった訳ではない。お互いの立場をちゃんと理解して、使命を果たそうとしてきた。だから、彼の真面目な人柄はよく分かる。
 同情で人に寄り添おうとできるような人ではないのだ。

「嬉しいわ」

 辻口の言葉に偽りを感じない。
 義務だとか、正義感だとか、もしそれが彼の中にあったとしても……彼はそれを愛として貫き、全うすると思った。

 それなのに、彼の見せる誠意を信じられないのに、涙が零れる。
 嬉しいと口にした言葉に、自身にも偽りは無いと痛感する。

「待ってるから、必ず迎えに来て頂戴」

 頷いて、乃々夏は辻口の手に自らのものを重ねた。
 
< 251 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop