京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「……本当に」
三芳は、はあと息を吐く。
……ここにきて、参っているような彼女は初めて見る。
やはり望まれないのだろうか。
どきどきと鳴る胸の音を聞きながら、史織はぐっと奥歯を噛んだ。
(それでも、引きたくない)
「も、申し訳ありません。納得いかないと思われます。でも、この気持ちに偽りはありません。朔埜さんに寄り添い、生きていきたいんです。どうか認めて下さい」
史織は手をついて頭を下げた。
「それは……私に言う事ではありまへんわ。私らはただの使用人ですさかいに……ここで認められるには、あなたがあなたの役割を果たす事しかありまへん」
「はい……その、出来ればそれを……教えて頂けますでしょうか……三芳さん……」
緊張の中答えを待てば、落ち着いた三芳の声が頭の上から聞こえてきた。
「……若旦那様がお認めになったのです。そうなった以上、誰がなんと言おうと、あなたが凛嶺旅館の次期女将ですよ。覚える事が沢山あります。今以上に精進して貰いますからね」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
厳しい口調は相変わらずだけれど。
受け入れて貰える一歩を、そのきっかけを掴み、史織はほっと息を吐いた。