京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
三ヵ月前からばたばたしていた日がひと段落……する間もなく。
十二月の商戦が始まっている。
朔埜の隣にいるのなら、できる限り何でもしたい。それには仕事を覚えねばならない。
凛嶺旅館にはかれこれ数代女将がいなかったそうで、業務の引き継ぎは三芳から行われている。
因みにそれが何故かは結婚してから伝えると言われてしまった。
「別に女将なんて、やらんでええ」
着付けた史織をむすっと睨み、朔埜はそっぽを向いてしまったけれど。やはり朔埜を支えたいし、そうなると女将として彼の隣に立ちたいものだ。
「私は働きたいです……駄目ですか?」
そう言えば朔埜はうぐっと口籠る。
「……その言い方は狡い。……まあいいけど。どうしたって不特定多数の人間が出入りする場所やからな。最初は人酔いするやろうし、無理すんな」
はあ、と溜息を吐いて悩ましい顔をしているのは相変わらずだが、史織の好きにさせてくれている。やっぱり朔埜は優しい、と嬉しくなる。