京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
3. 来たぞ、京都だ
1. まずは基本の挨拶から
学生時代の史織は親の言う通り、いい子だった。特に「大人しくて控えめ」である事が母の希望だ。
元々俯いて人の影に隠れるような女の子だったから、その要望は難しく無かったけれど。
日常生活や成績に問題も無く、両親に苦言を呈させる事も無かったので、史織も特に「自分」に疑問を持った事は無かった、のだが。
それなのにあの時、葵にはっきり嫌いと言われ、史織は傷付いた。いや、正確には驚いていた。
葵の顔を思い出せば、自分が他の彼の目にどう写っているのかが気になるようになった。それに、もし次に会えた時、良い印象を持たれたいなんていう思いも抱くようにも。
史織は元々内気な自分を嫌っていたけれど、あれではっきりと、変わりたいと思うようになったのだ。
習い事やアルバイトを始めたい。そう必死に両親を説得した。アルバイトは特にいい顔をされなかったが、自分で働いたお金で自己啓発をしたいという訴えに父が頷いてくれた。史織が変化を望む事を、父は気付いたようだった。
史織には自分が無い。
だから作りたいと、変わりたいと思った。
踏み出した一歩は、世界が広がるような、不思議な感覚で史織を包んだ。