京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
穏やかな秋晴れの中、スーツケースを一つ持って。
空と同じように顔を青褪めさせながら、史織は京都の地を踏みしめた。
今更ながら、本当に上手く行くのだろうか。
千田の名前に頼らない、自立した人間になりたいと。そう望んで自分を研磨してきたけれど。
ばくばくと胸が鳴る音が耳に響く。
京都は史織にとって禊の地でもある。
変わりたいと願ったきっかけの場所。
それなのに訳の分からない使命と自分の事情に、変に身体が強張ってしまう。
「本当に、何でこうなったんだろう……」
見上げる先には憧れの旅館。
それなのに、これからのひと月を思うと……心が不安で、胸が張り裂けそうだった。