京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
 
「ああ、西野さん? お話は聞いていますよ」
「はい、よろしくお願いします」
 出迎えてくれた使用人に、史織は急いで頭を下げた。

 山際に立つ古民家のような趣の家屋は、新鮮な彩りに囲まれた庭園が覗いている。奥行きある家は屋敷のようで、先に続く奥の間には紅葉が風にそよいでいた。

(うわあ)

 憧れの、旅館。
 
 この老舗旅館を経営するのは、四ノ宮家。
 古都京都において、未だ名を馳せる名家なのだそうだ。
   
 四ノ宮家は老舗旅館の経営から始まり、今はホテル業、旅行業、運輸業へと手を伸ばし世界規模な事業展開を連ねている。
 ただ元は小さな宿屋が商いの始まりであり、代々の当主は本家の旅館を本拠地にする習わしとなっているのだそうだ。
 ……世界に裾野を広げているのに、何故拠点を京都に置いているのだろうと、少しばかり不思議に思う。……まあ史織には関係ないけれど。

 それに麻弥子は四ノ宮家に嫁入りしたら、京都在住になると言う事になる。それは麻弥子は納得するのだろうかと、やや疑問だ。それもまあ、史織にも関係ないけれど……
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