京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
そんな男性の風貌に史織の緊張が少しだけ解けた。
ただ男性の方は史織の心情に興味は無いようで、再び向こうを向いてしまった。ちっ、とか舌打ちまで聞こえてくる。
(う、申し訳ない……)
思わず顔を俯ければ再び男性から叱咤が飛んでくる。
「──泣くなや、今こっちで話しておくから。ちょっと待ってろ」
「……」
心細さと居た堪れなさに俯く中、意外な気遣いで急に気持ちが浮上する。我ながら単純だと思ってしまうけれど、嬉しい。
「ありがとうございます……」
「ああ」
再び二人に向き直った男性は、観光客が示す地図を見ながらやりとりを始めた。ふと会話の途切れた瞬間、二人と目が合い、史織は思わず男性の服の裾を掴んだ。
「Oh,is that so……」
「Do it well!」
「……」
急に破顔する二人に対して男性の背中からは冷えた空気が漂ってくる気がするが……
やはり良く分からないまま、男の人たちはHAHAHAな感じで去って行く。
「──何がやねん、あほくさ」
史織がほっと一息つく一方で、男性は悪態をついているが……取り敢えず一つ問題が片付いた事を有り難く思う。
改めて目の前の背中を見上げれば、成人前の子供のようだ。
それなのに自分の為に立ちはだかってくれたのかと思うと、その勇気に感服してしまう。
「あ、あの。本当にありがとうございま──」
言いかけたまま固まってしまったのは、目の前の男の人の首が一気に史織に振り向いたからだ。