京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
人の家にちゃっかり上がり込み、興味深そうに部屋を見回している。自分の部屋なのに、何故か朔埜の方が居た堪れない。
そんな朔埜を見透かすように、目の前の老人は懐手をして口の端を吊り上げた。
『心配するな、お前に何の価値も無ければ直ぐに解放してやる。生活に不安があるならその後の最低限の保障もくれてやろう』
警戒を露にする朔埜に対し、何一つ大した事は無いという風に、祖父はからからと笑ってみせる。
不思議と、それが朔埜に響いた。
自分を都合良く躾るでもない、懐柔するでもない。ただ手を差し出すだけの祖父の姿が、朔埜の心を擽った。
(悪くないかもしれない……)