京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「──あら、朔埜はん。何ですの声も掛けないで……」
眼鏡を掛け直した目を眇め、三芳は眉を顰めた。
「ちょっと頼み事や、……て誰かおったんか?」
どかっと畳に座り、手近な座布団に手を伸ばしたところで、それの位置に僅かな乱れに気付いた。
「ああ……葦野はんのとこのね。紹介の子ですわ」
そう言いながら三芳はてきぱきとお茶の準備を始める。よく見ると前客の湯呑みも部屋の端に片してある。
「そういや言うてたな、……誰か探りでも入れに来たか?」
その言葉に三芳は肩を竦めた。
朔埜のお見合いについて。
祖父が用意した相手は、どちらも権力者の娘である。だからこの話の先を見据える為にも、状況を把握しておきたい者がいてもおかしくはないけれど。
そもそも先に口約束とは言え婚約者がいるのだ。
後者は前者に喧嘩を売ったとも言えなくも無いが……こう言った時、東西の隔たりは面倒臭く思う。
いずれにしても朔埜にしたら気が早すぎるとしか言えない。
「どうですやろ。けどまあわざわざ葦野家に角を立てる訳にもいきまへんから、あまり露骨な調査は出来まへん。これから忙しくなりますやろ。あの手合いは無視しといてかましませんと思いますわ。……それにまあ、多分あの子は素人ですやろ」
「……怖」