京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
葵 朔埜。
朔埜は祖父に引き取られて暫く、四ノ宮を名乗るのを躊躇った。葵は母の旧姓だ。義父の姓を名乗るのも嫌で、気付けばそう名乗っていた。
その頃はまだ四ノ宮と認識されるのが嫌で、誰にでも苗字で呼ばせていた。苗字なのか名前なのか分からない響きが丁度よく、朔埜の心に平穏をくれた。
(──今思い返すと少し恥ずかしいわ)
朔埜は金になるまで脱色した髪にタバコを咥え、不貞腐れた態度のガキだった。
そんな十五歳の餓鬼は三芳を散々手こずらせた……らしい。朔埜にしてみたら鉄拳制裁の三芳に敵った記憶など、とんとないのだけれど。
四ノ宮を名乗るようになったのは祖父に正式に後継を命じられてからだ。その頃やっと三芳にも認められ、成長を見守る親のような眼差しで労われた。
(ったく。何かってーと、昔話をほじくり返すんやから)
朔埜にとって葵は、癇癪を起こした子供のような存在、言わば黒歴史である。
気まずさを誤魔化したくて、続けて三つ、菓子を頬張った。