京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
3. 意外な邂逅
「僕は辻口と言います」
三芳の座敷を後にして、先程史織を案内してくれた青年がそう名乗った。今は部屋へと案内をしてくれてる。
最初はじっくり観察する余裕なんて無かったけれど。歳の頃は三十くらい。
涼しげな目元に落ち着いた佇まい。だけど、なんて言うか、眼差しは冷たい気がする……
口利きで来た新人に良い印象を持っていないのかもしれない。
しかし彼は三芳の下で働いているが、手が足りない時は朔埜の手伝いをする事もあるとの事。
……これは貴重な情報源である。
「西野です。改めてよろしくお願いします、暫くお世話になります」
相手の心情はこの際置いておく。史織は早々に確信を持ち、この仕事を終えてしまいたいのだ。
だから出来るだけ笑顔で接するように心掛ける。
とことこと進む廊下の左右を見渡して、窓から覗く紅葉や趣ある造りにひっそりと感動してしまう。少しくらいなら許して欲しい。凛嶺旅館を楽しみにし来たのだから。
「西野さん、今まで接客業の経験はございますか?」
ふと振られた会話に史織は自分の接客スキルを思い浮かべる。
「えーと、居酒屋でアルバイトを少々……」
「……」