京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「お忙しい中すみません、ありがとうございました」
 辻口から一通りの説明を受け、史織は頭を下げた。
 教育係は三芳だが、細かい世話は辻口がやいてくれるらしい。ここは同性を希望したいところだが、紅葉シーズンの繁忙期。世話になっている身としては我儘は言えない。

「別に構いません」
 ……本当に何でも無いと言うふうに口にする人である。
 生活に必要な場所を教えて貰い、旅館の地図を渡された。内線番号表に担当者名。シフトの時間と注意事項。
 頭に入れねばならない取り決めは思っていたよりも多く、持ってきたB6サイズのメモ帳はひと月で足りるだろうかと不安になってきた。

「後で三芳さんから改めて講義があると思いますが、凛嶺旅館の名を汚すような真似はくれぐれもしないように、と釘を刺されると思います。今から振る舞いにはくれぐれもお気をつけて下さい」
「はい……分かりました気をつけます。ありがとうございます」
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