京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
本当に、そっけない人だ。
とは言え彼も従業員であるのだし、朔埜の噂を知らないだろうか。何とか聞くタイミングが無いものかと様子を探っていると、ふと辻口がこちらを向いた。
「ああそうだ──念の為ですが……」
「あ、はい?」
「若旦那様には決まったお相手がいます。無意味な期待などなさらないように」
何だろうと居住まいを正せば、意外な言葉が降ってきた。
「……はい?」
「失礼、念の為です。稀にいるのです、身の程知らずが」
「……はあ」
「では」
言うだけ言うと辻口は背を向けて行ってしまった。
それより何も聞けないまま、あっさりと牽制されてしまったではないか。
「決まった相手って、麻弥子ちゃんの事かしら……」
せめてそれだけでも聞いておけば良かった。
でも無言の圧が凄かったし……果たしてこれからもそんな隙があるのだろうかと、史織はがっくりと肩を落とした。