京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
辻口が部屋を出てから。
史織は充てがわれた住み込み用の一室で、布団に突っ伏した。
夕飯までまだ二時間以上ある。
先に風呂の場所を聞いておくべきだった。
布団の上をころりと転がり、先程受け取ったシフト表と旅館の地図、担当表を見比べる。
──心配事しかない。
これを見る限り、明日史織は朝五時には起床して、やる事が満載だ。
(でも、折角だし……ううん、違うわ)
史織のミッションは、四ノ宮 朔埜の恋人の有無を確認する事だ。
そうだそうだと、ぎゅっと拳を作る。
朔埜の情報を集めるのだ。
旅館を散策している間に、あわよくば彼に会えるかもしれない。
史織はスマホを片手に部屋を出た。
勿論カメラ機能を使うかもしれないからだ。紅葉を写真に収めるのは決して第一目的ではない……
廊下に顔を出せば、ちょうど縁側に草履が置いてあったので拝借する。
先程の紅葉とは違う庭に続いているらしく、こちらに面しているのは涼しげな竹林だ。澄んだ空気を吸い込んで、凛とした青の間を縫うように歩いていく。
夜はこの竹の合間を月が覗き、さぞ風流な事だろう。
ふわふわとした気分で歩いていると、前から煙が流れてきた。誰かが焚き火をしているらしい。
竹林を火がぱちぱちと爆ぜる音が響き、薄い煙が覆っている。これもまた風情がある。
「綺麗」
思わずほうっと口にすると、煙の向こうで誰かの影が揺らいだ。