京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「あ〜ん、もう。この旅館古いし道は入り組んでるしー、ほんと嫌ぁーい」
聞こえてきた、のほほんとした声に目を瞬かせる。
こちらに近付くにつれ、はっきり目視できる人影は女性。歳の頃は史織と同じか少し下、だろうか。
栗色に染めた緩く波打つ髪を一括りにして肩口から流している。白地に大振りの花がプリントされたワンピースが良く似合っていて、その格好から旅行客……というよりは外食に来たお客様、という感じがする。
じっと見つめていると、垂れ目がちのその瞳と目が合った。
「あら〜? だあれ?」
首を傾げる女性に史織は思わず自分の仲居着を握りしめる。着替えておいて良かった……
「ここの従業員をしております、西野と言います」
史織はぺこりと頭を下げ、挨拶をした。
その様子を見て女性は、ふうんと唇に指を添えて首を傾げた。
「あたしぃ、ここの従業員は全員覚えているんだけど〜、あなたの事は知らないわ〜?」
「え……」