京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 こそりと耳の奥に忍び込むような囁きに、史織の肌がぞわっと泡立った。
「あ、これ〜、あたしの連絡先〜。何かあったらここに連絡入れて〜?」
「へ? あの、……」
「困った時はお互い様だから〜」
 戸惑いながらも、差し出された気付けばそれを受け取ってしまう。

 史織が動揺している間に再び距離を取った乃々夏は、ほわほわとした笑みを浮かべたまま、くるりと踵を返して行ってしまった。
 その後ろ姿が再び煙に隠され消えていく。

 そこでようやく史織は目を覚ますように声を張った。
「え、何今の?」
 狐狸に化かされたので無いのであれば……

 知っている? 史織を? 
 それに何故連絡先をくれたんだろう……?
 もしかしてどこかで会った事があるのだろうか?
(やばいっ)
 ここの関係者では無いと言っていたが、詳しそうだった。もし、史織の事を話されて、引いては千田に辿り着かれでもしたら大変な事になる!
 
 乃々夏、乃々夏……

 どこかで聞いた事があるような、無いような──
 混乱している今では、思い出せるものも思い出せる気がしない。
 母か麻弥子に相談するべきだろうか。
 史織もまた急いで部屋に戻ろうと、急いで踵を返したところ、どんっ! と何かにぶつかった。
 焦りすぎて竹に激突したのだろうか……
 痛む鼻を摩っていると、頭上から不機嫌そうな声が聞こえて来た。
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