京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「ここで何してんねん」
見上げればそこには、竹箒を手にした青年──
「あ……」
四ノ宮 朔埜がいた。
「……っ」
挨拶をしようとした言葉を、慌てて飲み込んだ。
自分は朔埜と初対面だ。余計な事を言わないように気を付けたい。しらばっくれて、いらっしゃいませとか言うべきだろうか。
……いやいや、竹箒持ったお客様なんている訳がない。加えて着物に羽織を重ねた着こなしは、旅館の関係者を思わせる。強いて言うなら朔埜はこの凛嶺旅館で若旦那の立場なのだけれど、こんなところで掃除なんてするんだな、なんて疑問に思ったくらいだろうか。
ともあれ色々と駆け巡る思考をまるっと放り、史織は一つ深呼吸をして顔に笑顔を貼り付けた。
「初めまして、今日からお世話になっております、西野 佳寿那です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「……」
「……」
あれ、返事がないなと思いつつ、史織はゆっくりと頭を持ち上げた。