京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
見上げると朔埜は先程よりも眉間に皺を溜め、何かを耐えるように口元をぎゅっと引き結んでいる。
……理由は分からないけれど、怒っているようだ。
一拍気まずい間を置いて、史織は改めて居住まいを正した。
「葦野様のご紹介で行儀見習いに参りました、西野 佳寿那と申します。どうぞよろしくお願いします」
けれど朔埜は怪訝な顔でこちらを見つめてくる。
「違う」
「えっ?」
「……さっきの台詞と違う。何て言った?」
「え……」
まさかそんな叱責が飛んでくるとは思わなかった。そんなに酷い挨拶だったろうか……
「さ、先程は『初めまして、今日からお世話になります西野 佳寿那です』と、申し上げました。……おかしかったでしょうか? 申し訳ありません……」
「初め、まして……?」
史織はあわあわと謝罪を口にするが、朔埜は何故か視線を逸らし肩を震わせている。……こちらの言葉は聞こえていないようだ。
「お前は……俺に……」
「……?」
考え込むような朔埜に首を傾げていると、妙に低い声が聞こえてきた。
「──挨拶一つまともに出来へんのか」
「……はい?」
じろっと睨みつける昏い瞳に、史織の肩がびくりと跳ねた。