京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

4. 四ノ宮 朔埜②


 ──四年前、
 朔埜はあの時逃げた女が気になった。
 鈍臭い上に泣きべそをかいて、挙句にどうやったら旅先で靴が壊れる? どんな確率で起きる? 普通、靴は壊れる前に汚れて捨てるだろう?
 それなのに。そんな常識を覆し、あんなところで途方に暮れた眼差しで佇んで、泣きべそを掻いていた女……

 いらいらと腕組みをしながら窓の外を見れば行き交う人の中にあの女がいないか探してしまう。
 履き物を返しに来るかもしれないと、朔埜はその日、凛嶺旅館と懇意にしているホテルに泊まっていた。
 支配人が困り顔で気を利かせてくるのは分かったが、正直そんな余裕は無かった。

 それから昼過ぎに彼女が宿泊していたホテルの従業員が履き物の礼をしにきた。
「……本人は?」
「それが、恥ずかしいと言わはりまして」
 苦笑する従業員に憮然とした顔を向けると、そこに動揺が滲む。
「あの、何か問題がありましたか?」
 朔埜が凛嶺旅館の──四ノ宮家の者だという事は、旅館業をしている者は大抵知っている。四ノ宮の名は強い。例え朔埜が婚外子であっても、後ろ盾が当主である以上変わらないのだ。
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