京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

(会いたかった……)
 ここでどれだけ待ってももう会えない事は分かっているけれど。
 文句の一つも言って……心配の言葉くらい掛けたかった。
 ふらりと立ち上がり、駅から外に出れば、空はすっかり深い青に塗りつぶされていた。
(昨日はこんな時分に会ったのに)

 当たり前だけど、今日はもういない。
 彼女は帰ったのだから。

 公共の機関を使うのが面倒くさくなって、タクシーを止めた。たった数年でお金の感覚が変わった我が身に苦い笑いが込み上げる。
(──どうせすぐ忘れる)
 そうして朔埜も家へと帰った。
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