京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
旅館に戻ると玄関先に祖父がおり、朔埜をにんまりと出迎えた。
「なんや珍しいな。奥座敷から出てくるん」
最近は引きこもりと化した祖父に胡乱な眼差しを向けるも、本人はどこ吹く風だが。
「帰ってきたら、ただいまやろ。それより、どうしたその顔は? ん? じいに話してみい。お前の力になってやるかもしれないぞ?」
自分の今の表情を揶揄されて、朔埜は狼狽えた。
落ち込んでいるところを見透かされたようで。けれど今まで朔埜が育った環境では、泣き言なんて誰も聞いてくれなかった。だから弱みを指摘された事で、いつもの負けん気が顔を出してしまう。
「いらん、これ以上あんたから何か欲しいと思わん」
今の分だけで上等で、自分が充分感謝しているとは、恥ずかしいので言葉にしない。
「ほほー、いいのかなー、じいには何でもお見通しやと言うんになあ。お前の意中の相手もほれこの通り。しっかり手に入れてるで」
「んなっ?」