京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「……これから、きちんと躾けて貰え」
「は、はい」
不機嫌そうに視線を彷徨わせ、そう告げる目の前の男性に微かな既視感を覚え首を傾げる。
(あれ、なんか……以前にもこんな事が……)
「……もうすぐ四ノ宮の宴会が始まるさかい。恥かかないよう、それまでに三芳と辻口にに作法を習うんやな」
──あったようなと思い返す前に、続く朔埜の言葉に史織は目を丸くした。
「四ノ宮家の宴会?」
「……やっぱ何も知らんのか……」
ぽつりと呟く朔埜を他所に、史織は内心で焦っていた。まさか自分の顔を知るような人はいないと思うが。
「それは、いつ頃……どなたが……?」
「三週間後や、それまで精進しとき。……ほれ」
そう言って腕を伸ばす朔埜に史織は意味が分からず困惑する。
「え、あの。何でしょう……?」
「箒や、掃け」
「あ、はい……」
腕の先にあるヒビの入った竹箒を恐々と受け取り、視線を逸らす。
……何か妙な勘違いをした気がする。
史織が密かに葛藤している中、ふっと笑う気配を頭上に感じたのと同時に、朔埜は踵を返して去ってしまった。
「何よ、もー」
へなへなと緊張が解ける中、史織はメモ帳に「性格、意地悪」と追記する事を誓った。