京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
朔埜はいつも不機嫌そうな顔だが、お客様の前では上手に仮面を被る。その変わりようたるや……史織はその決定的瞬間を目撃したとき、辻口の背中を思い切り叩いて怒られたくらいだ。
ついでに、たまたまそれを見ていたらしい朔埜にも睨まれた。
……もしかしたら既に目をつけられているかもしれない、気をつけよう。
仕事を始めて一週間。
言いつけられた通りに動ければいい方で、メモが手放せない日々を送っている。立ち仕事と言うより、歩き仕事というか走り仕事というか、時間も無くて目まぐるしい。二週間後には体力がついていそうである。
今日は、初めてお客様の案内を言いつけられており、史織はエントランスへと急いだ。
「あれ、千田さん……?」
「え?」
振り返った先を見て、史織はさぁっと青褪める。
気を抜いていた訳では無いけれど、こんな所で知り合いに会うなんて思っていなかった。
頭の中で今日の宿泊状況を確認する。
会社の研修で予約のあった、二十人の団体さんだ。流石にその名簿に目を通すなんてしなかった、けれど。今はしておけば良かったと後悔してる。
(藤本君?! ……ど、ど、どうしよう!)
その中にいたのは史織の学生時代の知り合いだった。