京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
藤本晃は大学時代の、史織の片恋の相手だ。
彼女がいたから、どうなりたいと思った訳では無いのだけど。想いを寄せている事で彼女の反感を買ってしまい、気まずい思いをした経験がある。
だから多分史織が藤本を好きだった事は、彼は知らないと思うけれど……
て、問題はそこではなくて。
(私は今、西野 佳寿那なんだ。……偽名を使ってるってバレちゃまずい……)
脂汗を流して立ち竦んでいると、辻口が史織の肩を叩いた。
「西野さん? 担当のお客様がいらしてますから」
「ふは、はいっ」
藤本と史織の間にはそこそこ距離がある。
幸い史織の動揺も、別の名前で呼びかけられていた事も周囲には勘づかれてないらしい。
ぎゅっと拳を作り、気を取り直して史織はエントランスを見回した。
史織が担当するのは、個人のお客様だ。
団体さんは史織には荷が重いと判断してくれた三芳を万歳三唱で讃えたい。
どうやらそれらしきお客様を丁度ドアマンが受付に案内しているようで。史織は震える足を叱咤して、急いで踵を返した。
「藤本ー、行くぞー」
「あ、はい」
同じように藤本もその場を立ち去る気配を背中に感じ、史織はほっと息を吐いた。