京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
史織の担当は四国から来た花崎という老夫婦で、史織の辿々しい旅館の説明を、おっとりと聞いてくれる優しいお客様だった。
どうやらこの旅館は初めてでは無いらしく、余裕もある。これもきっと三芳の計らいだろう。
史織に対する気配りというよりは、お客様への不手際を防ぎたいからだと思うけれど。
「去年は、建仁寺と三十三間堂に行ったのよ。参拝したいところは沢山あるのだけど、歳を取ると余り歩き回れなくてね。お嬢さんはどこかお勧めはある?」
お茶を淹れていた手を止め、顔を上げる。
史織は京都は二度目だ。
ただ、今回に至っては観光は出来ていない。
史織は四年前にあれこれ見た記憶を引っ張り出し、一番のお勧めを思い浮かべた。
「高台寺……でしょうか」
「あら、いいわね。そういえば暫く行ってないから、そこに行ってみようかしら」
にっこりと笑う夫人に楽しそうにご主人も頷いている。
仲の良い夫婦だなあと思い、なんだか微笑ましいような羨ましいような、気持ちがむずむずしてしまう。
「では何かありましたら、お呼び出し下さい」
自然と浮かぶ笑みのまま、ぺこりと頭を下げて、史織は部屋を後にした。