京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「結婚かあ」
ぽつりと口にして、何故か気恥ずかしくなる。
史織にはまだまだ縁遠い話だ。いつかはと思うけれど、現実味が全く無い。
麻弥子のお見合いの手伝いをしているせいか、最近この言葉が妙に耳に入ってくるけれど……
「千田さん、結婚したの?」
突然背後から掛けられた言葉に、史織の心臓が跳ね上がった。
「ふ、ふ、藤本くん?」
「うん、久しぶり」
にっこりと笑う藤本に史織は左右を見渡す。誰かに聞かれたら困る会話になるかもしれない……なったらどうしよう……
「千田さん?」
「あ。う、うん。何?」
「こんなところで千田さんに会えるなんて嬉しくなっちゃってさ。探しちゃった」
(……学生時代なら嬉しかったかも……ううん、飯塚さんがいるから困っただけか)
藤本は何故か史織の手元を気にしているようだ。何かついているのかと、史織もそれに倣って自分の左手を見てみると、前からクスッと笑う声が聞こえた。
「あ、いや。指輪をしてないのかなと思って。……仕事の邪魔になるの?」
「……あ」
どうやら藤本は史織の苗字が変わった事を、結婚した為だと勘違いしたようだ。
えーと。
「あの、結婚したんじゃなくて……これはその、家の事情で……」
「えっ」
──嘘は言っていない。