京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
けれど藤本の驚く顔に罪悪感が芽生えてしまう。
申し訳ないと思うけれど、かといって事情は打ち明けられないし……
もし次に会う事があったら、謝って話そうと誓う。
「そうなんだ、ごめん、立ち入った事聞いて……」
「う、うん。気にしないで。それとここでは『千田』って呼ぶのはちょっと……」
「あ、じゃあ名前で……」
それもっと駄目ーっ。
「そ、それもちょっと! 実はここ来たばかりでねっ。仕事中に友達と馴れ馴れしくしてると思われちゃうと、ちょっと困るかな?!」
「そっか、そうだよね……」
そんなに残念そうな顔をされると本気で困ってしまうのだが……
「えっと、」
やはりきちんと事情を話すべきかと、先に続ける言葉を躊躇っていると、肩をぐいと引かれ、後ろに倒れそうになる。
何かにぶつかり事なきを得たけれど、その何かが何なのか、史織は顔を顰めて声の方に視線を向けた。
「申し訳ありません、うちの従業員が何か?」
視界を目の前に乗り出した羽織姿に隠され、はたと気付く。──朔埜だ。
(やばい、どうしよう)
あわあわとする史織だが、前に出ようとすると朔埜に押し戻されてしまう。