京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
2. 思わぬ告白
ばん! と裏手への扉を閉じ。
じろり、と史織を睨む。
その目はいつもの「不機嫌」では済まされない程の怒りが見て取れるので、史織は来るであろう叱責に首を竦ませ身構えた。
「お前の担当は別のお客様やろ。あんなところで何で──男と戯れてるんや」
最後は噛み付くように語尾を強める目の前の朔埜を見上げ、史織は途方に暮れた。別に遊んでいた訳ではない。でもそう見えたなら謝るべきなのだろう。
「も、申し訳……」
そう口にすれば、朔埜の口元が歪に歪んだ。
「否定せんのか……昔の男とわざわざこんなところで逢瀬なんてやめてもろか。旅館の体裁が悪いさかいな」
「え。ち、違います……」
朔埜はいつも不機嫌そうな顔をしているが、今日のそれには明確な怒りを乗せていた。
それでも藤本とはそんな仲では無いし、曲がりなりにも勤務中に、そんな浮ついた気持ちで接客しようなんて思わない。どちらもちゃんと否定したくて、史織は朔埜の目をしっかりと見つめ返した。